ヘリコバクターピロリ菌
多くの方が誤解されていますが、コレラ菌や赤痢菌と異なり、ピロリ菌がいるからといって直ちに治療が必要なわけではありません。多くの場合、乳児期に感染し、知らないうちに胃に住み着き、胃炎となり、長い年月をかけて萎縮性胃炎となり、さらに進行していく過程の中で消化性潰瘍や胃がんを発生することがあります。
40歳以上の方で50%が感染しているという報告もあります。ですから、正しい情報を知っていただき、現行の保険診療ではどのように診断・治療が行われているかをお伝えします。
ピロリ菌除菌が保険適用となるケース
保険診療でピロリ菌の検査や除菌治療を行うためには、胃カメラ検査などで対象となる疾患の診断を受けている必要があります。具体的には以下のケースが該当します。
- 胃カメラまたは胃バリウム(透視検査)で胃潰瘍または十二指腸潰瘍と診断された方
- 胃MALTリンパ腫の方
- 特発性血小板減少性紫斑病の方
- 早期胃がんで内視鏡的治療後の再発がん予防を目的とする方
- 胃カメラで胃炎(ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎)と確定診断された方
ピロリ菌の検査・診断方法
ピロリ菌の有無を調べる検査には、胃カメラで組織を採取する方法と、胃カメラを使わない方法があります。
| 組織鏡検法 | 胃カメラで採取した組織を顕微鏡で観察し、直接菌を確認します(当院で実施可能)。 |
|---|---|
| 迅速ウレアーゼ試験 | ピロリ菌が持つ酵素の働きを利用し、専用キットで判定します(当院で実施可能)。 |
| 培養法 | 採取した組織から菌を培養して確認します。 |
| 抗ピロリ抗体検査 | 血液中の抗体を調べる方法です(当院で実施可能)。 |
| 便中ピロリ抗原検査 | 便の中に菌の成分があるかを調べます。精度が高く、除菌判定にも適しています(当院で実施可能)。 |
| 尿素呼気試験 | 検査薬を服用し、吐き出した息(呼気)を分析して調べます。 |
ピロリ菌除菌治療の具体的な流れ
-
1次除菌(最初の治療)
2種類の抗菌薬と胃酸を抑える薬の計3種類を、朝夕食後に1週間続けて服用します。正しく服用することで、70~80%程度の確率で除菌に成功します。 -
除菌成功の判定
除菌終了後、1か月以上経過してから判定検査を行います。当院では精度が高い便中ピロリ抗原検査を推奨しています。血液検査は結果が出るまで時間がかかるため、判定には向きません。 -
2次除菌(不成功の場合)
1次除菌で菌が残った場合、薬の種類を変えて再度1週間の内服を行います。2次除菌まで含めた成功率は90%以上といわれています。
服用時の注意点と耐性菌のリスク
除菌治療で最も大切なことは、薬を飲みきることです。途中で中断したり、飲み忘れたりすると、除菌に失敗するだけでなく、菌が薬に対して抵抗力を持つ耐性菌に変化してしまう恐れがあります。
特に過去にペニシリンアレルギーがある方は、使用できる薬が異なるため、必ず事前にご相談ください。
除菌薬の副作用について
副作用の多くは、内服期間が終了すれば自然に軽快します。主な症状は以下の通りです。
- 下痢:症状を和らげるため、当院では整腸剤を同時に処方することがあります。
- 味覚障害:食べ物の味が変に感じることがあります。
- じんましん:皮膚にかゆみや発疹が出ることがあります。
ただし、治療を中止すべき重篤な副作用(血便、高熱、呼吸困難など)が数パーセントの割合で起こる可能性があります。特に服用後すぐに異変を感じた場合は、直ちに服用を中止し、当院までご連絡ください。
ピロリ菌除菌のメリットとデメリット
ピロリ菌を除菌することは多くの疾患予防につながりますが、一方で理解しておくべき留意点もあります。
除菌によるメリット
- 慢性胃炎の改善と、胃粘膜の萎縮進行を抑えることができます。
- 胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発を抑制します。
- 胃がんの発生リスクを約3分の1に抑制する効果が期待できます。
- 胃MALTリンパ腫や特発性血小板減少性紫斑病などの病状が改善する場合があります。
除菌後のデメリットと留意点
- 除菌に成功しても、胃がんの発生リスクが完全にゼロになるわけではありません。
- 胃の機能が回復することで、逆流性食道炎や胸やけの症状が出ることがあります。
- 胃の調子が良くなることで食欲が増し、体重が増加する場合があります。
- 鎮痛剤(痛み止め)による潰瘍については、除菌では防ぐことができません。
